2024年3月9日土曜日

小菅 優 いずみ室内楽シリーズ Vol.1 祈り

  昨夜は大阪のいずみホールで「小菅 いずみ室内楽シリーズ Vol.1 祈り」を聴いてきた。近年すっかり演奏会から足が遠のいている私でも「これは聴きに行かねば!」と思わされるプログラムだったからである。その期待を裏切らないまことに充実した演奏会だった。

この演奏会の主題は「祈り」(https://www.izumihall.jp/schedule/20240307)であり、演目は次の通り:

 

C. サン=サーンス:祈り op. 1581919

L. ブーランジェ:哀しみの夜に(1917-18

0. メシアン:多くの死(1930

時の終わりのための四重奏曲(1940

 

いずれも20世紀前半、精確に言えば第1次大戦中から第2次大戦中までの間にフランスの作曲家が書いた作品だが、演奏会のコンセプトがはっきりと伝わる選曲であり、作品の内容、演奏ともにまことに聴き応えがあった。

 どの作品、演奏にもそれぞれに心惹かれたが、やはり四重奏曲が圧巻。メシアン作品の演奏にはともすると耽美的なだけのものになりかねない危険があるが、今回の演奏はそうではなく、いろいろな面で並外れた、そしてしばしば異様でさえある作品世界を見事に現出させていたように思われる。とりわけ第67曲での錯乱には震撼させられたし、第3曲でたった1本のクラリネットが描き出す世界の広さと深さにはただただ圧倒される。他の曲の演奏もすばらしく、全曲を通じて実に濃密な「時」を過ごすことができた。

 サン=サーンスは大好きな作曲家なのに実演で触れることができるのはごく限られた作品だけなので、録音でしか知らなかったものがこのように生で聴けるのはうれしい。よくぞこの曲を選んでくれたものだ。

 ブーランジェの《悲しみの夜に》は初めて聴いたが、ホ(短)調の暗く悲しみに満ちたトーンの音楽が終わりにつかの間明るくなるものの、最後の和音がそれをいわば打ち消すようなものになっており、作曲者の「悲しみ」の深さを思って胸が痛む。が、それはそれとして、改めてこの夭折の作曲家への興味は深まるばかり。

 メシアンの《多くの死》は録音で知っていたものの身を入れて聴いていたわけではなかったので、今回の演奏によってその魅力を教えられた。

 ともあれ、この企画、演奏ともにすばらしい演奏会を聴かせてくれた音楽家の方々、そして運営に関わった方々に心からの御礼を。どうもありがとうございました。なお、この演奏会シリーズはあと2回あり、主題はそれぞれ「愛」と「希望」だとのこと。今回の演奏会のすばらしさを思えば、当然、期待せずにはいられない。