「クラシックファンのためのコンサート」というNPO法人がある(https://classicfan.jp/?page_id=37)。そこが主催する演奏会シリーズの通算第251回目に中野慶理先生が出演されるので聴いてきた(3月21日、於:大阪倶楽部会館4Fホール。なお、先生はこれまでにもこのシリーズに何度も出演されているとのこと)。
演奏会は1時間ほどのコンパクトなものなのだが、個々の曲に先立って演奏者によるトークもあり、この会場(https://osaka-club.or.jp/guidance-room/)ならではの雰囲気も相俟って、まことに充実した時間だった。演目は次の通り:
ドビュッシー(ボルヴィック編):牧神の午後への前奏曲
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第27番ホ短調 op. 90
ブラームス:4つの小品 op. 119
草野次郎:「宵待草」の主題によるパラフレーズ
この日もっとも楽しみにしていたのが最初の演目《牧神の午後への前奏曲》。言わずと知れた管弦楽の名曲だが、それを中野先生がピアノで弾くとなれば、何かを期待せずにはいられないではないか(しかも、自分が音楽の道へ進むことを決意させたのがこの曲だったと先生が演奏前に語っただけに、なおのこと)。そして、実際、すばらしい演奏だったのだが、聴きながら、それがどんな楽器によって奏でられているかなどはほとんど気にならず、音楽自体がストレートに迫ってくる心地がした。名曲、名演。
続くベートーヴェンとブラームスの曲について、中野先生は演奏前に独自の解釈=物語を披露してくれたが、いずれも「なるほど、そういうふうにも音楽を読み解けるものなのか」と唸らされる(こうした「物語」で示される想像力の豊かさは先生の演奏の魅力と無関係ではあるまい)。もちろん、演奏自体にも。とりわけ心惹かれたのはベートーヴェンのソナタ、とりわけ、いわばピアノによる「リート」たる第2楽章だ。そのときに覚えた幸福感は筆舌に尽くしがたい。
最後の演目の魅力について先生は熱く語っておられたが、演奏はそれを立証する見事なものだった。加えて、この曲にとっては今回のようなこじんまりした、親密な雰囲気の漂う会場も大いにプラスに作用したことだろう。ともあれ、ここでもやはり幸せな気分に浸ることができたわけで、作曲者(随分前に、この方の《管弦楽のための協奏曲》を実演で聴いたことがある。中身は忘れてしまったが、佳曲だったと記憶している)に感謝。
中野先生の演奏はいつ聴いても何かしら発見があり、充実感と幸福感を味わうことができる。先生、今回もどうもありがとうございました。