岩城宏之指揮、NHK交響楽団の演奏・録音(1972)で黛敏郎(1929-97)の《涅槃交響曲》(1958)をスコアを眺めつつ聴いてみた。この作品は画期的な名曲だとされるが、今回、久しぶりにじっくり聴いてみて、「そこまでの作品かしら」と思った。もちろん、随所にいろいろ面白いところのある作品だし、日本の西洋音楽史には特記されるべきものではあろう。が、これが後世まで演奏され続けるだけの名曲であるようには私には感じられなかった。というのも、それはいろいろな面で実験に留まるものであり(まあ、このことは「現代音楽」の世界でこれまで「名曲」だとされてきた多くの作品についても言えよう)、未整理なところ(この曲の場合には、いろいろな様式のごたまぜ感)が少なからずあるように思われたからだ。その点でこの《涅槃交響曲》よりも少し後の作品、すなわち、《曼荼羅交響曲》(1960)や《舞楽》(1962)の方がもっとよくできているし、いっそう楽しく聴ける。「名曲」として残ってしかるべきなのはこちらの方ではなかろうか。
ところで、その《涅槃》については、作品自体よりも、それが他者に及ぼした影響を追いかける方が面白いかもしれない。この作品は当時はもちろん、のちの作曲家たちにも少なからぬ影響を与えたはずだからだ(たとえば、松村禎三の60年代の管弦楽曲は、もし《涅槃》がなければ、かなり違ったかたちになっていたのではないかと想像される)。そして、その意味ではやはり《涅槃》の登場は1つの「事件」だったと言えようか。