指揮者の岩城宏之が亡くなって今年で20年だとか。私は自分が気になる人の生没年は頭に入っているのだが、そのデーターベースには岩城の名はなかったので気がつかなかった。私も岩城が日本の西洋音楽界で成し遂げたことの大きさには賞賛を惜しまない。それにもかかわらず、その「没後20年」に気づかなかったのは、この人のことがあまり好きではなかったからだろう(彼の言行にはいわゆる「歯が浮くような」ところが多々あった。たとえば、ベートーヴェンの交響曲を一日で演奏するなど、自己顕示欲の現れ以外の何ものでもなかろう。また、ふと思い出したのだが、岩城が指揮する演奏会で次のようなことがあった。演目に武満徹の《ノヴェンバー・ステップス》があったのだが、その前に岩城がトークを行い、その中で当日のプログラムに載せられていた曲目解説を批判し、書き手の無理解をなじっていたのである。実のところ、そこで岩城が言っていた内容自体は大いに首肯できるものだったのだが、それをああした場でわざわざ言うさまを目の当たりにし、「ああ、この人は嫌な人だなあ」とつくづく思ったものである)。
では、なぜ、その「没後20年」を知ったかといえば、書店でたまたま岩城を論じた本が目に止まったからだ。そこで、手にとってぱらぱらとめくってみたところ、それがいわゆる「礼讃本」であることがわかった。もちろん、この手の本があって悪いわけではない。が、もし、本当に岩城の業績を讃えるのならば、冷静に彼の指揮者としての軌跡を具体的なデータでもって示した方がよかったと思う。岩城はいわゆる「現代音楽」に力を注いでおり、日本の作曲家の作品については必ずしも「前衛」とは限らないものも含めて多くの初演・再演を手がけてきた。それゆえ、その記録を示すだけでも十分な「オマージュ」になったに違いない(し、資料としての価値も高いものになったことだろう)。のみならず、「現代音楽」がまだ存在感を持っていた時代についての貴重なドキュメントになったことだろう。というわけで、誰かそうした本を著してくれないものだろうか。さらに欲を言えば、岩城の活動をその時代背景の中で冷静かつ批判的に描き出す「岩城宏之とその時代」のようなものならば、いっそうよい。岩城はそのようにして論じられる意義のある重要人物だと思うからだ(なお、日本の西洋音楽関係の人物について、「礼讃本」はいろいろあり、その中には読み応えのあるものもあるが、こうした「○○とその時代」の類の本は残念ながらまだ書かれていない。やはり、まだいろいろ差し障りがあるからだろうか。ともあれ、これはいろいろな「しがらみ」から自由な若い書き手に期待したいところだ)。
ところで、岩城の「没後20年」に絡めてTower Recordsが彼の指揮した日本の作品の録音をCD4枚で復活させた(https://tower.jp/article/feature_item/2026/09/25/1121)。
そこでそのうち三善晃その他の作品を収めたものを聴いてみたが、すばらしかった。 1 曲を除き1960年代に書かれた作品がその完成からさほど時を経ずして演奏・録音されているのだが、こうした作品が生まれた時代の熱気を強く感じさせるものだった。岩城の指揮もこの頃のものは実によい(平吉毅州(1936-98)の《交響変奏曲》(1969)(https://www.youtube.com/watch?v=xSlk7CeP3oc&list=RDxSlk7CeP3oc&start_radio=1)と出会えたのはうれしい驚きだった。私にとってこの人は「合唱曲」の作曲家だったのだが、管弦楽でもこれほどの作品を残していたとは……。実はこの曲は少年時代に聴いてはいたが、そのよさが当時はわからなかったのである。全くお恥ずかしい限り)。