ここ数日の暑さには全くお手上げで、仕事以外の外出は極力避けていた。が、昨日は演奏会へ。「いずみシンフォニエッタ大阪 第48回定期演奏会『知の絢爛』」がそれである。「生誕100年記念クセナキス特集」ということで、彼の作品がいくつも取り上げられるとなれば、これは聴き逃せないではないか(さらにいえば、暑いときにはこうした熱い音楽を聴くと爽快感が得られることが少なくないので)。そして、その期待をさらに上回るまことに充実した演奏会だった。
演目は次の通り:
クセナキス:ノモス・アルファ(1965-66)
リネア-アゴン(1972)
アロウラ(1971)
パリンプセスト(1979)
バルトーク(川島素晴編):2台のピアノと打楽器のための協奏曲
クセナキスの音楽には概ね普通の意味での主題や動機のようなものがないので、聴き手はひたすら「音の出来事」と状態の推移に耳を傾けるしかない。そして、それで十分に面白いのだが、演奏者の動作を見ながら聴くとその面白さは格段に増す。このことを改めて強く実感させてくれたのが最初の演目、独奏チェロのための《ノモス・アルファ》だ。動と静、強と弱、密と粗の間を変幻自在に動き回る音には当然、それを生み出す動作が伴っているわけだが、これが音のありようを視覚化してくれる。ただし、それだけに演奏者がこの作品をどうとらえているかもよくわかるわけで、「大根役者」の手にかかるとそれこそ目も当てられないことになる。その点、この日の独奏者、丸山泰雄は見事に難曲を演じきっていた。
続く《リネア-アゴン》は3人の金管奏者の間で営まれる「音のゲーム」。勝敗が決まるに到る過程が聴き手にわからないのは(作品のあり方として)些か残念だが、それでも音と演奏者の動作が織りなすシュールかつコミカルな劇は楽しい。
《アウロラ》は12人の弦楽器奏者による作品で、出世作の《メタスタシス》以降ある時期までのクセナキスの音楽の特徴の1つだったグリッサンドが大活躍する。独奏曲よりも音の運動の自由度と多様性が増すので音だけではなく奏者の動作からも目が離せない。
この日最後のクセナキス作品《パリンプセスト》は4つの管楽器、弦楽五重奏、打楽器とピアノによる作品で、「グリッサンド」以降の作風、そしてピアノの名技が楽しめる佳曲だ。碇山典子のピアノは相変わらず切れ味がよく、このピアノについで活躍する打楽器やその他の楽員たちの妙技と相俟って、何とも刺激的。
演奏会後半はバルトークの《2台のピアノと打楽器のための協奏曲》。これは意表を突く選曲だが、実はよく考えられているもの――つまり(当日のプログラム・ノートで述べられていることだが)、1つにはバルトークがクセナキス音楽の源泉の1つであること、もう1つには前半最後のピアノと打楽器が活躍する《パリンプセスト》との繋がりのゆえである――で、実際に聴いてみて「なるほど!」と唸った。作品・演奏ともに見事で、クセナキスとは違った興奮をもたらしてくれた。
ともあれ、選曲・演奏ともに見事で聴き応えのある(さらにいえば、つかの間酷暑を吹き飛ばしてくれた)すばらしい演奏会だった。というわけで、演奏者と公演関係者の方々に心からお礼を申し上げたい。