今年はグレン・グールドの生誕90年、没後40年にあたる。これはメーカーにとっては商売の好機ということで、この秋に『バッハ:ゴルトベルク変奏曲 1981~未発表レコーディング・セッション・全テイク』なるものが出るのだとか。まあ、グールド・ファンにとっては興味深いものだろうが、泉下のご本人にとってはいい迷惑かもしれない。自分が仕上げた「録音作品」の舞台裏を勝手に明かされるのだから。
もっとも、こうした未編集の録音の公表はグールドの数あるアイディアの1つを実現するものだとも言える。そのアイディアとは、1つの作品についてなされた複数の録音テイクを素材として聴き手に提供して自分なりのヴァージョンをつくらせる、というものだ。果たしてグールドがどの程度本気だったかはわからないが、そうしたアイディアを示したのは確かであり、すると、今回の『バッハ:ゴルトベルク変奏曲 1981~未発表レコーディング・セッション・全テイク』はまさにそれを実践する好機の到来(!?)だといえようか。ともあれ、ディープなグールド・ファンは挑戦してみればよかろう。私は自分ではやってみたいとは思わないが、人がつくりあげたものは聴いてみたい気がする。
ようやく大学も夏休みに入り、ほっとしている(授業は週一日で3コマのみだが、準備や学生の文章の添削はなかなかたいへんなのである。が、もちろん、非常勤でもこうした――たいへんだがなかなかに楽しいし勉強にもなる――仕事があるのは零細自由業者にとってはとてもありがたいことだと思っている)。これからほぼ2か月、自分の原稿書きに励みたい。