全音楽譜出版社が継続的にプロコフィエフの楽譜を出し続けてくれていることは、彼の音楽の大ファンとしてまことにありがたいことだと思っており、今後も継続を強く期待している。
さて、このところ同社刊の第8、第9ソナタを納めた巻で前者のソナタを見ている。編者(佐々木彌榮子)は校訂の底本にブージー&ホークス版を用いたと述べているにも拘わらず、それとは異なる箇所がいくつか目に付く。そこで試しに旧ソ連から出ていた版を見てみると、まさにこちらと一致しているのだ(のみならず、楽譜のレイアウトも同じ)。もちろん、この版(編者が校訂に用いた資料として名を挙げているのはMCA社版だが、中身は旧ソ連の版と同じ)を参考にしてブージー版を訂正することは1つの「解釈」であり、それ自体に問題があるわけではない。問題はそれを何ら断らずに行っていることだ。ここはやはり、訂正する前のかたちも註釈で示し、それを退けた理由についても説明すべきだったろう。そうすれば、楽譜ユーザーが自分で判断し選択できるわけで、その可能性を閉ざすことは現在の楽譜編集のあり方としては好ましくない(なお、浄書のミスだろうか、何カ所か臨時記号が抜けているところもあった)。とはいえ、この全音版のおかげで楽譜が入手しやすくなったのは確かであり、それは日本のユーザーにとってはありがたいことであろう(もっとも、早々に不備は正した方がよかろう。なお、きちんと資料批判を経たプロコフィエフのピアノ・ソナタの校訂版の登場は今後に待たねばならない。Henleからは第7番が出ているので、続刊に期待)