ブゾーニの5巻(のちには10巻のかたちに再編集された)の《ピアノ練習曲》には純然たるオリジナルのみならず、ブゾーニお得意の「編曲」ものも含まれている。その少なからぬものは名曲の一節を練習の目的に応じてアレンジしたものなのだが、この流儀はピアノ学習者にとってまことに有益であろう。つまらない純然たる「エクササイズ」を我慢してやるよりも、楽しい名曲の一節をうまく活用する方が断然やる気も起ころうというものだ。そして、自分で課題を探し、それに合う素材を見つけ、場合によってはつくりかえるという能動的な作業は、音楽する技の向上にも繋がる。
ヴォルフ・ハーデンの『ブゾーニ ピアノ作品集』の掉尾を飾る第13巻には上記《ピアノ練習曲》からの抜粋が含まれているが、まことに美しい演奏である。この「作品集」の録音には20年以上の年月が費やされているのだが、最後まで質の高い演奏を続けたこのピアニストの偉業を讃えたい。