昨晩は大阪のいずみホールでアンドレアス・シュタイアー&アレクサンドル・メルニコフのデュオを聴いてきた(http://www.izumihall.jp/schedule/concert.html?cid=2615)。実にすばらしかった(演目の詳細は上記リンク先を参照のこと)。
2人は師弟関係にあるとのことだが芸風はかなり異なり、その相互作用によって音楽はまことに刺激的なものに。しかも、演奏会前半と後半でプリモ(つまり、高声部担当)とセコンド(低声部担当)を交替しており、そのことによってこのデュオは違った容貌を示しつつ、シューベルトという作曲家の多様な面を見せてくれた。
前半はシュタイアーがセコンド。彼の演奏は表出力に富むもので(これは彼の本領がチェンバロとフォルテピアノにあり、その時代の作品にHIPの流儀で打ち込んでいることと無関係ではないと思う)、下からプリモのメルニコフをいわば焚きつける。が、諸部分の微妙なバランスをうまくとって音楽を構築する術に長けたメルニコフは、シュタイアーの演奏を音楽全体の構築に巧みに取り込んでみせるのだ。そうした二人が奏でた《アンダンティーノと変奏曲》や《ロンド イ長調》は美しさの中にも不穏さが仄見えるものであり、後半への期待が高まる。
その後半ではシュタイアーがプリモを務め、音楽のドラマを見事に演じた。それ以上やりすぎるとすべてが台無しになってしまうぎりぎりのところで彼は音楽表現を行っており、それをメルニコフが完璧に支える。とりわけ《幻想曲》は圧巻。もっとも印象深かったのは、いくつかの場面転換を経て曲が終わる直前、冒頭主題が最後に現れてⅡ♭度の和音に進んでつかの間たゆたった――それはここに到るまでのドラマがまるで夢か幻であったかのような感覚をもたらす――のち、通常のカデンツに戻る箇所だ。そこを聴きながら、このわずか数小節のうちに《幻想曲》全体のドラマが凝縮されているように感じるとともに、この二人の演奏に深い感動を覚えたのである。
というわけで、当日の演奏者、そして、この演奏会を企画・運営したホールの関係者の方々に篤くお礼を申し上げたい。