2022年5月9日月曜日

ピアノで「歌う」ための練習法の一試案

 ピアノは原理的には打楽器だが、それだけに「歌う」ように弾く(精確にいえば、「歌っているように聴かせる」)ことは通常のレパートリーの演奏には欠かせない技術である。

では、そのように弾くには具体的にどうすればよいのだろうか。「歌」を真似るにも、その何をどう真似るかがはっきりしなければ、たんに「もっと歌って!」とピアノの先生から言われても生徒は困るだろう。何かはっきりしたお手本が必要なわけで、ショパンが弟子にオペラを聴くことを勧めていたのはまさにこの点に関わっている。

そこで、たとえば次のような学び方はどうだろう――

 ①まず、自分が弾く曲の作曲家が話す言語で書かれた歌曲を歌えるようにする(もちろん当人の書いたものならば申し分ないが、それに拘る必要はない)。必ずしもうまくなくてもかまわない。が、音楽面できちんとした歌い方をするようにし(そのためには和声進行の基本と和音外音の処理の仕方を学ぶ必要がある)、かつ、語の発音、リズムとイントネーションをきちんと守らねばならない(とりわけ後者の点は重要だ。というのも、それは音楽のありようと密接に結びついているからである。そして、このことをきちんと行うためには当該外国語の発音の仕方――普通に話す場合と歌う場合の違いをも含めて――を正しく学ぶ必要がある)。

②次にはその自分が歌った歌曲をピアノで弾いてみる。最初は旋律だけを取り出し、歌手になったつもりで、歌詞のありように細心の注意を払いつつ(たとえば、明るくて開放的な音である/a/と深くて暗い音である/ɑ/[追記:うっかり発音記号を逆に書いていたので訂正した]をピアノでどう弾きわけるか? 鼻母音をどう表現するか? 当該言語特有の(日本語とは全く異なる)リズムとイントネーションを守る――等々)歌い方の再現を試みるのである(これはかなりの難行苦行のはずである)。

③そして、それができたら、伴奏(これは必ずしも元の楽譜通りではなくてもかまわない)をもつけて練習する――という具合である(どの段階でも名歌手の演奏がお手本として欠かせないことは言うまでもあるまい)。

――という具合である。このやり方の肝は言語と結びついている音楽表現に目を向けることであり、それは歌詞のない器楽曲の演奏表現にも(日本語的なリズムとイントネーションで弾いてしまうことから脱する上で)有益だと思うが、どうだろうか?。