またしても大学の図書館で目に留まった本の話題を。原塁『武満徹のピアノ音楽』(アルテスパブリッシング、2022年)がそれだ(https://artespublishing.com/shop/books/86559-253-5/)。
著者は「序章」で「本書は純粋で自立した作品を求めるフォーマリズムや、作品を離れて独り歩きする言葉に閉じる印象批評的な立場からは距離をとる」(前掲書:11)ものだとした上で、狙いをこう述べる――「『作品=楽譜=作曲技法』と『言葉=思考=美学』、戦後日本に固有の『コンテクスト』という三者を紡ぎあわせ再文脈化しながら、その相互作用のダイナミズムに光を当てることである」(前掲書:11-12)と。そして、それはかなりのところ成功しているように思われた。また、私にとっては教わる点――武満の「作曲技法」や「美学」、そして、種々の先行研究についてなど――が少なくない著作でもあった。のみならず、論じられていた武満作品を改めてきちんと聴き、また、自分でもピアノで(下手ながらも)弾いてみたくなった。
それゆえ、この著者にはピアノ曲に留まらず、次は武満音楽の本丸たる管弦楽作品にも挑戦して欲しいところだ。そして、「1980年以降の武満作品の良さ」を説得的に論じてくれればうれしい。その際には作品の「響き」の問題に(方法の整備も含めて)正面から取り組む必要があろうが、一読者として新たな成果を大いに期待している。
(なお、作品の「響き」をとらえるには「楽譜」もさることながら、それ以上に「耳」を大いに働かさなければならない。その点で、前掲書の分析の何カ所かに私は異論――それはあくまでも「私ならばこのような聴き方、とらえ方をする」ということにすぎないが……――がある。これについては次回、譜例付きで述べることにしたい。)