2023年2月8日水曜日

法貴彩子 ピアノ・ジャンクションVol.3 ~「ソナタ」の魅力と呪縛~

  昨日は法貴彩子さんのリサイタルを聴いてきた。とても楽しかった:https://phoenixhall.jp/performance/2023/02/07/16203/

 最初はベートーヴェンの「テンペスト」ソナタ。「ロマンチック」に弾かれることも少なくなく、それでもある程度はさまになる曲だが、法貴さんが奏でたのは紛れもなく「古典派」の音楽だった。そして、その意味でとりわけ面白かったのが第3楽章。そのリズムの扱いに、「なるほど、これは確かにあの『運命』交響曲をのちに書いた人の音楽であるなあ」と思わされる。

 続くリストのソナタはベートーヴェンの音楽に負けず劣らず堅固に構築された曲であり、それが見えてこないような演奏ではしょうがない。が、それをあからさまに示す、説明的な演奏でもつまらない。自らの構築性を壊しかねないような力や勢い、そして自由な遊びがこのソナタの演奏には欠かせないが、法貴さんの演奏にはそれがあった。音楽をいっそう劇的かつ効果的にする上でさらにいろいろ工夫の余地はあったかもしれないが、とにかく、聴かせる演奏であった。とりわけ、最後のクライマックスののち、長い休止を経て最後の締めくくりに入る箇所で深い感動に襲われた。

 さて、最後は当日の一番の難物にして呼び物たるブゥレーズの第2ソナタである。このブログで何度も述べているように、私はこの曲が名曲だとは思っていない。心惹かれる箇所は随所にあるものの、いちおうソナタ楽章に聞こえる第1楽章を除き、全体が断片の寄せ集めに聞こえてしまい、1つの作品としての満足感を与えてくれないからだ。にもかかわらず、これまで種々の録音を聴いてきたのは、この「ソナタ」が演奏者次第では十分面白くなりうるものだからだ。そして、この日の法貴さんの演奏は30数分に及ぶ全曲を最後まで見事に聴かせきった。断片の連なりから「生きた」音楽が生み出されていたのである(とりわけ第4楽章。もう少し「錯乱」の度合いが強ければなおよかったかもしれない)。

 ともあれ、このまことに興味深く、ハードな演目を音楽として十分に楽しませてくれた法貴さんに、そして、この企画を採用・実現したホールの関係者に深くお礼を申し上げたい。そして、法貴さんにはこれからもこうした挑戦を続けていただきたいものである。