2024年2月9日金曜日

グヴィズダランカ『現代ポーランド音楽の100年――シマノフスキからペンデレツキまで――』

  いわゆる「現代音楽」を含む20世紀の音楽に興味がある人でも、その時代のポーランドの作曲家や作品について多くを知っている人はほとんどいまい(かく言う私もそうだ)。が、ルトスワフスキをはじめとする何人かの優れた作曲家とその作品を知る人ならば、他のポーランドの作曲家についてもあれこれ知りたいと思うのではなかろうか(私もまた)。そんな人にとって、格好の本が出た。ダヌータ・グヴィズダランカ『現代ポーランド音楽の100年――シマノフスキからペンデレツキまで――』(白木太一、重川真紀訳、音楽之友社、2023年)がそれだ(https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=112170。ちなみに、同書を私は訳者の1人で気鋭のポーランド音楽研究者、重川真紀さんからいただいた。どうもありがとうございました)。

同書は書名に示された内容をまことに手際よく、かつ、魅力的な筆致で述べており、一読すればポーランド音楽への興味がいっそう深まることだろう。私も読みながら、あれこれの作品を聴いてみたいと思った。昔ならばそれは絶望的に難しかっただろうが、今やインターネットのおかげでかなり容易になったがありがたい(実際に何人かの作曲家の作品を試してみた)。というわけで、皆様も是非、お試しあれ。

ところで、「訳者あとがき」によれば、同書原本は「2018年にポーランドが独立回復百周年を迎えるにあたり。ポーランド音楽出版社(PWM)のイニシアティヴのもと、国内外の文化研究機関が連携しながらこの百年間におけるポーランド音楽の歩みを広く紹介する「百年百曲。音楽と時代と自由と」というプロジェクトの一環として出版された」(同書、188頁)ものだという。なるほど、(少なくとも近現代においては)周囲の大国に蹂躙・翻弄された歴史を持つポーランド――すなわち、国の内と外の両面で自己のアイデンティティを強く示す必要に迫られ続けてきた国――ならではの事業(この邦訳書は「駐日ポーランド大使館、ならびにポーランド広報文化センターから出版のための助成を受けた」(同、191頁)とのこと)と言うべきか(この点ではショパン・コンクールやショパンの「ナショナル・エディション」(いわゆる「エキエル版」)も同様)

他方、2018年といえば、わが日本も「明治150年」を祝って(?)いたはずだが、音楽文化面でどんな有意義な事業がなされたかがとんと思い出せぬ。 「たかが音楽」と言うなかれ。こうしたことは一事が万事である。諸外国に比べて文教予算を大いにケチっている国家の未来は決して明るくはない。