2024年2月5日月曜日

池内友次郎の対位法とフーガの教本がリニューアル復刊

  池内友次郎の対位法とフーガの教本3冊が音楽之友社から復刊された(https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/result.php?author=%E6%B1%A0%E5%86%85%E5%8F%8B%E6%AC%A1%E9%83%8E)。ただし、オリジナルのかたちではなく、今日の読者向けにリニューアルされている(https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=105240)。

 この「リニューアル」は一長一短だと思う。まず、第1点、「譜例のハ音記号をト音記号やヘ音記号に変換」というのは、なるほど、初学者にとっては便利ではある。が、ハ音記号にもそれなりの利点があるわけで、それを捨てるのはいかがなものか。ハ音記号を使えば、譜面(ふづら)上、バス(これはへ音記号)とテノールの、そして、アルトとソプラノの最低音と最高音は同じところに記される。つまり、声部の違いに関わらず記譜上の音域は(ほぼ)同じ場所になるわけで、これは音を実際に扱う上でわかりやすい。その点、テノールにヘ音記号、アルトにト音記号を用いればそうはいかないし、加線の数も増えて譜面が煩雑になる。また、ソプラノ記号、アルト記号、テノール記号(いずれもハ音記号を用いるが、五線上の位置が異なる)が読めれば、移調楽器の楽譜を読むのに役立つ。確かに最初は慣れるまでに時間がかかるかもしれないが、その苦労は十分に報われよう。

 リニューアルの第2点、「文語的な文章表現を変換」というのは学習者にとっては大いにけっこうなことだと思う(ただし、泉下の著者(高浜虚子の子息で、俳句でも一家を成した人物)には少なからず不満はあるかもしれない)。また、第3点、誌面デザインの刷新」というのも読みやすさの点で好ましい。

 もっとも、このリニューアル復刊の意義は、私には正直なところまだよくわからない。というのも、対位法については山口博史『パリ音楽院の方式による厳格対位法』という好著が同じ出版社から出ており、こちらの方が池内のものよりも有用だと思われるからだ(池内の『二声対位法』については、細かい説明の点で、音楽之友社版以前に全音楽譜出版社から出ていた『対位法講義 第Ⅰ部 二声』の方が格段に親切だ)。が、その山口本と併用すればよい結果が得られるかもしれない。また、『三声-八声対位法』と『学習追走曲』(新版では『学習フーガ』)は長らく版が途絶えていたので、その点でも同書に触れたかった人にとって復刊は有意義であろう。

 なお、私の全く個人的な考えだが、池内の一連の教科書で復刊されるべきは、むしろ『和音外音』であり、また、『和声実施集』ではなかろうか(なお、前者については課題の作成者、野田暉行による解答例を同氏の『和声100課題集』(https://www.teruyuki-noda-officeoversea.com/%E5%95%86%E5%93%81%E7%B4%B9%E4%BB%8B/#cc-m-product-12456715787)の「付録」で見ることができる)。後者については第三者による詳しい分析と解説が付けられれば、いっそう有用なものとなるはずだ。