2025年11月27日木曜日

やはりすごい本だった

  川崎弘二『NHKの電子音楽』(フィルムアート社、2025年:https://www.filmart.co.jp/pickup/33386/)を大学図書館から借りてきて読み進めているが、何ともすごい本である。書名には「NHKの」とあるが、周辺情報もたっぷり収められているので、『日本の電子音楽史』としてもよいほどのものだ。

とにかく、「よくもまあ、こんなことまで調べてあるなあ」と驚かされることの連続である。たとえば、諸井誠と黛敏郎の共作《7のヴァリエーション》をめぐる諸井と別宮貞雄などとの論争については、両者の言い分をきちんと押さえ、著者自身の冷静な考察がなされている。のみならず、諸井と別宮の師である池内友次郎が2人を呼び出して「あなたたち、今すぐここで死になさい!」(前掲書、430頁)と説教したことまで調べており、それに対しても「師である池内はそのような論争が不毛であることを諭したかったのかもしれない」(同)とコメントをしているのだ。万事がこの調子であり、緻密な調査と冷静な考察、そして、随所ににじみ出ている「電子音楽への愛」に私は一読者として深い感銘を受けずにはいられない(同書があまりに高価なので購えないのが残念だが、それでもこのような名著が読めるのは本当にありがたいことである)。とともに、同書で描かれている「現代音楽」が活気を持ち得た時代に些かの羨望の念を抱いてしまう。