メンデルスゾーンの「スコットランド」交響曲は通称であって、本人が付けた名前ではないのは周知の通り。とはいえ、この曲の端緒が作曲者のスコットランド旅行にあったのは確かなので、その通称をわざわざ否定する必要はあるまい。
ちなみに、この曲はヴィクトリア女王に献呈されている。彼女はスコットランドを実質的に傘下に収めたグレートブリテン王国の後継国家たるグレートブリテン及びアイルランド連合王国の長であり、仮にそのような人物に「スコットランド」と銘打たれた作品が献呈されていたとすればかなりブラックなことであったろう。だが、もちろん、そのようなことはなかったわけであり、初版のスコアの曲名には「交響曲第3番」としか記されていない。
それにしても、この「スコットランド」交響曲は何とすばらしい作品であろうか。恥ずかしながら、その見事さを私が実感したのはそう遠い過去のことではない。たぶん、他にも世にいわれる「名曲」について、そうした見落としはいくらでもあることだろう。また、逆にこれまで自分がすばらしいと思っていた作品が実はそれほどのものではなかったと感じることも少なからず起こりえよう。まあ、それが「生きている(つまり、良くも悪くも昔の自分は今の自分と同じではない)」ということなのであろうか。