2025年8月13日水曜日

岩井克人『経済学の宇宙』に深い感銘を受ける

  たまたまご近所図書館で手にした岩井克人『経済学の宇宙』(日本経済新聞出版社、2015年)を読んでみたが、実に面白い。著者が主流派たる「新古典派経済学」から離脱し、古典との対決を通して独自の理論――たんなる「経済学」に留まらない「人間科学」――を構築していくさまはまことに感動的なドラマだ。同書刊行の2015年から10年が経っているわけだが、その後、著者の思索はどのように進展したのだろうか。是非とも知りたいものだ(ただし、私のような門外漢にもわかるようかたちで書かれたものによって)。

同書でとりわけ印象深かったのが、ある時期以降の著者にとって「倫理」の問題が重要なものとなっていたことである。それは現在の世界を席巻している新自由主義――この国をも蝕んでいる恐るべき思想――ではおよそ顧みられない問題だけになおのこと。

もっとも、別のところでこの著者が20117月の時点で「法人税減税」や「消費税増税」を支持していた(浜田宏一『21世紀の経済政策』、講談社、2021年、173頁)のには正直驚いた。その後2回行われた消費税増税はこの国の景気に大きな打撃を与えているわけだが、そのことについて著者の見解を聞いてみたい気がする。

ところで、毀誉褒貶の激しいMMT(現代貨幣理論)だが、支持派と反対派両者の言い分を見比べる限りでは、前者に分があるように思われる(前掲書『21世紀の経済政策』の著者――新自由主義に与する人――でさえ、MMTのことを「その社会的役割を考えると、日本のように財政バランス墨守という財務省的見解が旧来からマスコミに刷り込まれている社会には、解毒剤として望ましいと思う」(同書、612頁)と述べているのだ)。もちろん、私は経済学理論にはど素人だが、少なくとも「失われ30年」を現出させた実績を持つ「財政規律」とやらを重んじる政策――アベノミクスはそれとは異なるものだったにしても、結局、大勢を変えるに到っていないのではないか――(とその担い手たち)を信じることはできない。

今、不景気な世の中にはまことに不穏な雰囲気が漂っているが、為政者には「衣食足りて礼節を知る」 という格言をよくよくかみしめてもらいたいものだ(なお、ヒトラーのように経済施策によって国民の心を掴んだ人もいるので、現在この国で積極財政を政策として掲げる政治家であっても、その他の面についてはよくよく用心する必要はあろう)。今日は柄にもないことを述べたが、たまにはこんなことも……。