往年の名ピアニスト、アルトゥール・ルビンシュタインは作曲家カロル・シマノフスキの親友であり、作品の演奏者であったが、録音はそれほど行っていない。交響曲第4番(協奏交響曲)とマズルカの抜粋などがあるだけで、3曲のピアノ・ソナタ、とりわけ第2番と第3番や《メトープ》《仮面》などの傑作は録音されずじまいだった。
すると、こう勘ぐりたくもなる。つまり、「実のところルビンシュタインはそうしたシマノフスキの作品がそれほど好きではなかったのではないか?」と。もちろん、これは録音の有無からだけ判断するわけにはいかず、演奏会の記録をも丹念に調べて見る必要があろう。とはいえ、ルビンシュタインのレパートリーや演奏スタイルを思えば、やはり「実のところ……」と考えたくもなろうというもの。ただ、もしかしたら、本人にはその気があってもレコード会社からOKが出なかったのかもしれないが……。
そのルビンシュタインがベルリンでシマノフスキの第2ソナタを弾いたとき、ゲンリフ・ネイガウスはそれを聴いて己の才能に絶望し、自殺を図ったという(ルビンシュタインの自伝『華麗なる旋律』を参照のこと)。が、その後シマノフスキ作品の演奏を積極的に行うのみならず、(リヒテルを含む)弟子たちにも教えたのがこのネイガウスだった(ちなみに彼はシマノフスキの親戚である)。なるほど、スクリャービンの名手でもあった彼の演奏スタイルはシマノフスキとも相性がよい。手を故障する前のネイガウスによる第3ソナタはどのようなものだったろうか。聴いてみたかったなあ。