金澤節さんは「中村攝」時代にヴァイオリニストの西田博氏とともにブゾーニのヴァイオリン・ソナタ2曲を録音している。これはまだLP盤の頃だったが私は発売と同時に購い、愛聴していた。が、いろいろあって手持ちのLPは手放してしまい、この名盤もずっと聴けないままだった。
が、今日、それを本当に久しぶりに聴くことができたのである。実はそのLPは一度CD化されており、それを(すでに生産中止なので)中古で購ったのだ。一聴して、昔日の感動が全く色褪せていなかったことがうれしかった。とりわけ、第1ソナタの演奏についてはこれ以上のものを知らない。
第2ソナタは今や普通のレパートリーになってしまい、あれこれ録音があるが、第1はまだそれほどブゾーニの個性がはっきりしていないこともあってか、今ひとつ人気がないようだ。とはいえ、私はこのソナタが大好きで、これまでに何種類かの録音を聴いている。が、それぞれに悪い演奏ではないものの、どこか「ぬるい」感じがして気に入らなかったのだ(実際、それらの演奏はテンポがいくらか遅めだった。その一例:https://www.youtube.com/watch?v=W1jrLuSs1kw)。その点、今日聴いた西田・中村コンビの演奏はまことにスリリングで、つい2回繰り返して聴いてしまった。この名演奏をお聴かせできないのがまことに残念である(興味のある方は中古盤を探されたい)。
ところで、この第1ソナタ第1楽章の冒頭にピアノが奏でる音型はそれ以前の作品、ピアノ・ソナタヘ短調の主題に由来する(https://www.youtube.com/watch?v=d5fEcwWX5ZM。ちなみに、この録音も残念ながらテンポが遅い)。アントン・ルビンシテインに献呈されている作品だが、これもなかなかの名曲である(終楽章にはベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア・ソナタ」の影響も)。こうしたものが聴けるのならば、私は喜んで演奏会場へ出かけるのだが……。
ブゾーニに関して日本語で読める文献は甚だ少ない。彼自身の文章の翻訳は(戦前に出たものを除けば)もちろん、きちんとした評伝も1つもない。今ならばある程度は読者が得られると思うので、まずは翻訳の登場が望まれる。
その翻訳としては、ブゾーニ自身の著作に加え、ブゾーニ版バッハの《平均律クラヴィーア曲集》の全訳もあればよいと思う(後者の編集は第1巻と第2巻ではコンセプトがかなり異なっており、なかなかに面白い)。また、アントニー・ボーモントの『作曲家ブゾーニ』(1986)は今となっては少し古いが翻訳される価値は十分あるし、ラインハルト・エルメンの『フェルッチョ・ブゾーニ』(1996)もコンパクトにまとまった好著である。
というわけで、若者の仕事に期待したい(私ももう少し若ければ挑戦するのだが……)。