私がジョン・ケージの 名作《3つのダンス》(1945)を知ったのは1980年代はじめのころ。FMで放送された一柳慧と高橋アキのデュオの演奏によってである。すっかり魅了されてしまい、エア・チェックを繰り返し聴いたものだから、この演奏のテンポで曲が頭に入ってしまった。
それゆえ、数年後、マイケル・ティルスン・トーマスとジョン・グリアスンの録音を聴いて仰天した。テンポが大きく異なり、まるで別の音楽に聞こえたからである。このデュオによる第3曲の演奏ではテンポはなかなり速い(https://www.youtube.com/watch?v=Na3cnPonfsU)のに対して、一柳・高橋デュオのテンポはそれに比べればまことにゆったりしていた(その録音はここにはあげられないが、やはり遅めのテンポをとっている別の録音をあげよう。第3曲は12’40”からである:https://www.youtube.com/watch?v=p7aMUR5x7yA)。
この曲の初録音を聴くとテンポが速めであることがわかる(https://www.youtube.com/watch?v=NHJYlJm3uhs)。すると、作曲当時のケージの念頭にあったのはこうしたテンポだったのであろうか。
だが、遅めのテンポによる演奏には、速めのそれにはない味わいがある。そして、今のような暑い季節に私が聴きたいのは前者だ。はじめにあげた動画をたまたま観て、そう感じた。ただし、一柳・高橋デュオの演奏はもっと飄々としており、いっそう涼しげだった記憶している。今聴けないのが残念。