夏は暑いものだが、今年はとりわけ酷い。というわけで、先月20日すぎから今まで、外出は必要最低限に留めていた。もちろん、演奏会など、とてもとても……。その中で、昨日はまだ暑さが収まっていないにもかかわらず、本当に久しぶりに音楽を聴きに出かけてきた。これを聴き逃す手はないと強く思ったからだ。その演奏会とは、「<福田進一と仲間たち vol.12> 福田進一&荘村清志 ジョイントリサイタル」(於:ザ・フェニックスホール(大阪))である(https://phoenixhall.jp/performance/2023/08/27/19875/)。そして、やはり出かけてよかった。
演目は次の通り:
・前半
【荘村&福田/デュオ】
▼カルリ:ラルゴとロンド 第2番(対話風小二重奏曲 op.34 より)
▼レイモン:ミッドナイト・メモリーズ(Hakuju ギター・フェスタ2020委嘱作品)
▼ファリャ(プホール編):歌劇「はかなき人生」より “スペイン舞曲 第1番”
【福田進一/ソロ】
▼アセンシオ:内なる想い
▼アルベニス(ウィリアムス編):スペインの歌 op.232より “コルドバ”
・後半
【荘村清志/ソロ】
▼グラナドス(福田進一編):詩的ワルツ集(抜粋)
▼グラナドス(荘村清志編):「昔風のスペインの歌曲集」より 第7番“ゴヤの美女”
「スペイン舞曲集」より 第1番“ガランテ” 第4番“ビリャネスカ”
【荘村&福田/デュオ】
▼グラナドス(荘村清志編):「スペイン舞曲集」より 第2番“オリエンタル”
▼押尾コータロー:Precious(Hakuju ギター・フェスタ 2023委嘱作品)
【荘村&福田&押尾/トリオ】
▼ラヴェル(押尾コータロー編):ボレロ
最初のデュオを聴いたとき、2人の奏者の適度な距離感を面白く、かつ、心地よく感じた。1つの音楽を一緒になってがっちり「つくりこんで」いるのでもなく、さりとて、2つの個性が終始火花を散らし続けるというのでもない。つかず離れずに両者が臨機応変に音楽と/で戯れているとでもいえばよいだろうか(なお、これはあくまでも私個人の感じ方にすぎない。これは以下の文章についても同様。当然、違った感じ方もいろいろあろう)。それゆえ、どの曲でもそれぞれにまことに面白い演奏を聴かせてくれたのだが、私にとってもっとも味わい深い演奏は最初のカルリ作品でものだった。
2人の個性の違いがまた面白い。福田が奏でる音楽にはとにかく「艶」がある。どんな些細なパッセージでも何とも艶めかしいのだ。が、もちろん、それだけではない。旋律に対する伴奏の「後打ち」の音や、装飾的に現れるハーモニックス、等々、音楽の中でどうということのない瞬間に得体の知れない深淵のようなものをしばしば垣間見させるのだ。その意味で私がとってもっとも心惹かれたのはアルベニスの〈コルドバ〉の演奏だった(原曲のピアノ曲よりも、今回の演奏の方が魅力的)。
他方、荘村の音楽は何とも「渋い」。表面には華美なところはなく、何かを誇示しようとの気負いは全く見られない。にもかかわらず、1つ1つの音、そして、その「間」の充ぶり実ゆえに、とにかく演奏から耳が離せない。それでいて、決して窮屈ではなく、遊びも欠けてはいない。もっとも胸を打たれたのは〈ビリャネス〉の演奏だ。
さて、今回の演奏会にはもう1つの目玉があった。それは押尾コータローの新作であり、かつ、彼が編曲した《ボレロ》である。前者について作曲者は「“弾いていて楽しい曲”を目指し」云々とプログラム・ノートで述べているが、その成否は2人の演奏ぶりから明らかだった。そして、幸いにも「聴いていて楽しい曲」でもあった(わざわざこう言うのは、今日の新作には必ずしもそうではないものも少なくないからだ)。また、後者はあの何とも絢爛豪華な原曲からエッセンスをうまく取り出し、「軽やか」でありながら熱気十分な音楽を――もちろん、パフォーマンスの見事さも相俟って――現出せしめた。いや、このような編曲、演奏があの曲で可能だとは……。なお、それら2曲の間に押尾がソロを聴かせてくれたのだが、これはうれしい驚きであった。
ともあれ、まことに素敵な演奏会であった。演奏者のパフォーマンスに魅せられるとともに、この楽器への愛がいっそう深まった。というわけで、本日の演奏者、演奏会の企画運営者に心からの感謝を。