急にネルソン・フレイレが弾くショパンの第3ソナタを聴きたくなり、手持ちのCDを取り出してきた。彼には新旧2つの録音があるが、今回は1969年の旧録音(発売は1972年)を。1944年生まれの人なので当時25歳になる年だったわけだが、詩情溢れる何とも見事な演奏である。やはり名ピアニストだったと再確認した次第。いちおう「だった」と言うのは2021年に亡くなっているからだが、録音で聴ける以上、私にとってフレイレは現在も名ピアニスト「である」。
そこでふと気になって、いったい現在フレイレのCDがどれくらい出ているものかを調べてみる。すると、驚くべきことにごくわずかしかなく、生産中止で現在では入手できないものが多かった。まさに「去る者は日々に疎し」の言葉通りである。あれほどすばらしいピアニストなのに……。
もっとも、これは彼に限ったことではない。生前にいかに盛名を馳せた音楽家であっても、ほとんどの人がそうなってしまう。現在活躍している音楽家が数多おり、また、次々と新星が登場してくるのだから。それゆえ、亡くなった人が比較的早く忘れられていくのは仕方がないことなのかもしれない。
とはいえ、録音が商品として市場から姿を消したとしても、今やインターネット空間の中で生き残る可能性はある。実際、件のフレイレの録音もYou Tubeで聴くことができる(https://www.youtube.com/watch?v=15QCHMHhXW4)。だが、こうなると現役の音楽家はたいへんである。死者もライヴァルになってしまうのだから。……いや、もっと違ったふうに考えた方がよかろう。すなわち、死者は生者の「ライヴァル」などではなく、は共に音楽の世界をかたちづくるものとなる、と。