ブゥレーズは少なからぬ自作を何度も改作している。が、生前にドイツ・グラモフォンから出たCDの「作品全集」に収められているのは、1曲を除き、最終版による録音だ。ということはつまり、彼は最終版がベストだとみなしており、それ以前のものはお蔵入りさせたいということなのだろう(他のところから自身の指揮による旧版の録音が出ているが、それは「記録」ということで容認したのだろうか?)。
すると、現在、彼の作品を演奏する場合も最終版に拠らねばならないということになるのだろうか? なるほど、作曲家の意向を重んじるならばそうすべきだ。実際、改作された出版譜の旧版が(〈マラルメによる即興曲Ⅰ〉を除いて)絶版になっている(ということはつまり、演奏用の貸し譜もない)以上、著作権が切れるまではブゥレーズの意志は貫徹されることになろう。
とはいえ、作曲者が自分の作品の最良の理解者だとは限らない。本人が気づいていない「よさ」を他人が作品に見出す可能性は十分にあろう。だからこそ、いろいろな作曲家について、その没後、本人がお蔵入りにした旧版を取り上げる演奏家がおり、それに拍手喝采を送る聴き手もいるわけだ。ならば、同じことが将来ブゥレーズ作品でも(生き残ったものについては)起こるに違いない。著作権が切れるのは随分先のことなので、私にはそれを確認することはできないが。