今日はパトリツィア・コパチンスカヤの音楽を聴いてきた(於:ザ・フェニックスホール(大阪))。演目は次の通り(https://phoenixhall.jp/performance/2023/03/19/18733/):
▼シェーンベルク:幻想曲 op.47
▼ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ 第7番
ハ短調 op.30-2
▼ウェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7
▼ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ 第9番
イ長調 「クロイツェル」
op.47
いずれの演目でもコパチンスカヤが繰り広げたのは「既存の作品の解釈」というよりも「他者の作品を土台にした創造」であり、だからこそはじめに「コパチンスカヤの音楽」という言い方をしたわけだ。そして、そこでの「創造」はまことに刺激的だった。
とりわけ驚いたのがベートーヴェンの第7ソナタだ。その演奏はいわば「プログレッシヴ・ロック」のごときもので(さらにいえば、民俗音楽調でもあった)、およそこの曲の標準的な演奏解釈からは遠く離れたていたのだが、音楽としての説得力は抜群なのだ。そのような演奏を可能ならしめるものが作品の中に潜んでおり(ベートーヴェンの音楽は作曲当時の音楽界では紛れもなく「プログレ」だったろう)、それをコパチンスカヤがうまく引き出して自分なりに自由に発展させた、とでも言えようか。このことは他の作品の演奏にも言えることなのだが、第7ソナタをとりわけ面白く感じたのは、「よくある」演奏との大きな違いとそこに現れている彼女の「創造」の大胆さと説得力のゆえである(その点ではシェーンベルク作品の演奏も実に見事)。いや、とにかく面白かった。
そんなコパチンスカヤとともに「創造」に参加していたのが共演のピアニスト、ヨーナス・アホネンである。今回の演目の1つ、「クロイツェル」ソナタを彼女はファジル・サイ(彼もまた「創造」的な演奏をする人である)と録音を行っており、そこでもスリリングな演奏を繰り広げているのだが、今回のアホネンとの演奏の方が「プログレ」度が高かった! 以前、アホネンが弾くアイヴズのソナタの録音を聴いたときにも「この人はタダモノではない」と感じたものだが、今回実演に触れ、コパチンスカヤとともに見事に音楽ドラマをつくりあげていくさまを聴き(観て)、その感を強めた。いずれ独奏も実演で聴いてみたいものだ。
アンコールは2曲。1つめは「作曲者当てクイズ」だったが、これはわからなかった。いや、まさかあの大家の曲だったとは……。そして、もう1つはギヤ・カンチェリのコミカルな小品。この人の音楽もいずれきちんと聴いてみたい。
ともあれ、まことにすばらしい演奏会であった(たぶん、「クラシック音楽」に日頃なじみのない人が聴いても楽しめるものだったろう)。どうもありがとうございました。