2025年4月29日火曜日

伊福部昭の作品で私が(今のところ)唯一好むもの

  数日前まで木部与巴仁『伊福部昭の音楽史』(春秋社、2014年)を再読していた。すると、急に伊福部の音楽が聴きたくなってきた。実のところ(このブログですでに述べたことだが)私はそれを好んでいないのだが、それにもかかわらず「ちょっと聴いてみようか」という気を起こさせたのだから、同書は名著だと言えよう。

 が、好きでもない作曲家ゆえに手持ちのCD1枚しかなかった(Naxosレィベルから出ているもの)。しかも、その演奏が妙に「ぬるい」ものだから困った。そこで思い切って新たにCDを購うことに。あてずっぽうに選んだわけではない。昔々聴いて「おっ、これはなかなかいいじゃないか」と思った作品・演奏が収められたものが出ているので、迷うことなくそれを選ぶ。フォンテックから出ている2枚組のもの(ただし、以前聴いたときには1枚もので、他の収録曲も異なっていた)で、その中の《リトミカ・オスティナータ》が目当てだったのである。この曲は手持ちのCDにも収められているのだが、全く別の音楽に聞こえるほどに演奏が「温い」。その点、今回購ったCDの演奏は格段にすばらしいものだと記憶していた。

 現物が手元に届くと、真っ先にそれを聴いた。そして、自分の記憶が間違っていなかったことが確認できた。井上道義指揮の東京交響楽団、ピアノ独奏は藤井一興のその演奏はかつて「伊福部嫌い」だった私を唸らせたものであり、今また新たな感動をもたらすものだったのである。いや、まことにすばらしい(この録音はYouTubeにはあげられていない。同じ指揮者と楽団による、だが、独奏者が異なる演奏はあげられていたので参考までに。だが、これは私にとっては「まあまあ」の演奏でしかない。ちゃんとした演奏であるのは間違いないにしても:https://www.youtube.com/watch?v=nle0msQLZ0M)。

 さて、件のCDには他にも何曲か伊福部作品が収められているので聴いてみた。ところが、それらにはさほど感動を覚えない。のみならず、どれも似たり寄ったりの「同工異曲」にしか聞こえず、しかも、その音調がまた私の好みに合わないのだ。それらが立派な音楽だということはわかるし、それに熱狂する人たちがいても当然だとは思う。が、その「人たち」の中に自分は今のところ含まれていない。残念。

 私には伊福部よりも、むしろ彼の友人にしてよきライヴァルだった早坂文雄の音楽の方が格段に好ましい。伊福部は早坂の最晩年の作品《ユーカラ》を「線の細い音楽」(前掲書、221頁)だと評するが、私にはそうは感じられない。そこには伊福部のどこか暴力的で押しつけがましい音楽にはない繊細さがあり美しさがある。もちろん、これはあくまでも私個人の感じ方にすぎないので、伊福部ファンの方はどうかご寛恕のほどを。今のところ1曲は心から感動を覚える作品があるのだから、いずれ伊福部の他の作品も楽しめる日が私にも来ないとも限らない。そして、できればそうなりますように。