先日、旧ソ連出身のピアニスト、ドミトリ・パパーノ(1929-2020)の『回想・モスクワの音楽家たち』(音楽之友社、2003年)を再読していた。著者の恩師アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼル(1875-1961)のことや往時のソ連の音楽院や音楽界のありようが活写されており、まことに面白かった。加えて、そこで描かれている「人間ドラマ」も実に興味深い。
著者はあくまでも当事者なので、他者への評価には当然主観が色濃く反映されている。とりわけ、同業のピアニストへの評価は人物評も含めてなかなかに辛辣なものもある。たとえば、上の世代のヴィクトル・メルジャーノフ(1919-2012)に対しては1949 年のショパン・コンクール入賞の時点で実質的にキャリアは終わっている、などと言うのだ。ところが、調べてみるとその判定はどうも厳しすぎるようで、メルジャーノフはそれなりに活躍していた(し、録音を聴き比べると、少なくとも私にはパパーノ以上に優れたピアニストだと思われた)のである。逆に自分が親しいピアニストには随分点が甘い。もっとも、それもこれもひっくるめて、鋭い観察眼を持つ著者の手になる貴重なドキュメントであるとともに「人間的、あまりに人間的な」回想録は面白かった。未読の方には是非、一読をお勧めしたい。
ちなみに、旧ソ連出身のピアニストで私が興味を持つのは、著者のパパーノよりも上の世代か、もしくはもっと下の世代である。1930年代生まれの同国出身のピアニストの演奏には概ね心が動かない。なぜだろう?
ガリーナ・ウストヴォーリスカヤ(1919-2006)の交響曲をCDで聴いているが、ただただ圧倒されるばかり(たとえば、次のものなどどうだろう。手持ちのCDの演奏とは異なるが、宇コア付きなので取り上げた:https://www.youtube.com/watch?v=aKOQ1r_zmgs&list=RDaKOQ1r_zmgs&start_radio=1)。そのサウンドは昨今の世情によく合うではないか。