米国におけるストラヴィンスキーの協力者として有名な指揮者ロバート・クラフト(1923-2015)だが、その演奏は私にとってはあまり面白いものではない。譜面を正確に音にしている以上のものが感じられないからだ(が、ストラヴィンスキーをいろいろな面で助けた彼の仕事についてはすばらしいことだと思う)。
そのクラフトが手がけた世界初のアントン・ヴェーバーンの作品(番号付き)全集がCDで復活するとか(https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%B3%EF%BC%881883-1945%EF%BC%89_000000000020730/item_%E4%BD%9C%E5%93%81%E5%85%A8%E9%9B%86-%E6%8C%87%E6%8F%AE%E3%83%BB%E7%9B%A3%E4%BF%AE%EF%BC%9A%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88%EF%BC%884CD%EF%BC%89_12370968)。
これを出したコロンビアはのちにブゥレーズを起用して全集再録音を行っており、クラフト盤はその陰にすっかり隠れてしまったが、まあ、両者の音楽家としての力量差を思えば、仕方があるまい。もちろん、そのクラフト盤もヴェーバーン受容史やレコード史の脈絡で見れば、それなりの意義はあろうが、私はどうしてもクラフトの演奏に興味は持てない。
にもかかわらず、この復活ディスクに全く関心がないわけでもない。いや、それどころ、少なからぬ興味がある。というのも、ピアノを用いた作品をレナード・スタイン(1916-2004)が一手に引き受けているからだ。スタインは米国でのシェーンベルクの弟子で、助手を務めた人物(彼が編集したシェーンベルクの著作が数冊ある)であり、となると、彼がどんなふうにヴェーバーンに取り組んでいるのか気になるところだ。
それにしても、たとえばベートーヴェンの同時代人が彼の作品をどう演奏解釈したかを今日の人々は文字資料から推測するしかないが、シェーンベルクなどの20世紀の作曲家については本人、そして、生徒や関係者の演奏解釈を録音で聴くことができる。そして、後代の者たちの解釈がどう変わっていったかも追跡することができる。当たり前と言えば当たり前だが、面白いことである。
ブゥレーズのヴェーバーン全集には2種類ある。1つは上で述べたコロンビア(現ソニー)のもの、そして、もう1つはドイツ・グラモフォンのものだ。後者は作品番号なしの作品も収めたもので、便利ではある。が、私は断然、1つめの録音の方が刺激的で面白いと思う。2つめの録音では概して演奏が「まろやか」すぎて、音楽が何の抵抗もなく頭の中を通り抜けていくように感じられるからだ。ただし、これはあくまでも私個人の感じ方にすぎない。グラモフォン盤の方を好む人も当然いよう。