2021年10月5日火曜日

古の言葉の響き

 言葉は生き物であり、常に変わり続ける。語彙の面に限らず、発音の面でもまた。すると、過去の声楽曲の発音はどう処理すればよいのだろうか。HIPの観点からすれば、たとえばシューベルトの歌曲は「当時のヴィーンの、作曲家が話していたであろうドイツ語の発音に拠るのが望ましい」ということになろう。が、果たしてそうした発音をどの程度再現できるものだろうか? また、再現がある程度できたとして、それを現代のヴィーン人が聴いた場合、彼らにはどのように聞こえるのだろうか? すっと詩の世界、音楽の世界に入り込めるのだろうか?

 

ビゼーの《アルルの女》第1組曲、第2組曲のスコアを読んでいたら、ぐっと引き込まれてしまった。とにかく、胸がきゅっとしめつけられるような音楽なのだ。この作曲家がもし、もう少しだけ長生きしていたら、果たしてどんな音楽を書いただろうか。考えても仕方がないことだとはいえ、つい、考えてしまう。

なお、第2組曲は本人の手になるものではなく、友人のエルネスト・ギロー(ドビュッシーの師)がまとめたものだが、その職人芸もまた見事なものだ。

その第2組曲は学部学生時代にオケのサークルで演奏したことがある。この曲にはサキソフォンが登場するのだが、そのときまであまり意識したことはなかった。が、練習ではじめてエキストラのサキソフォン(というのも、この楽器はオケの通常編成には含まれてないので)奏者が加わったとき、その何とも美しく、かつ効果的な用法に驚いたことを思い出す。