2025年5月3日土曜日

今年はショパン・コンクールの年だとか

  今年はショパン・コンクールの年だとか。私はそんなことには微塵も興味がないので全く忘れていた。が、妻がたまたまその予備予選の動画を見つけ、私に教えてくれたのである。そこで、自分でも少しは演奏を聴いてみたが、やはり興味はわかない。コンクールの時代はとっくに終わっているし、そもそも「減点法」のコンクールで真の才能が(ごく稀な場合を除き)そうそう発掘できるはずもないので、「何ともご苦労なことだ」としか思えない(いや、これは些か辛辣すぎる物言いであった。コンクールにはこれから世に出ようとする若者に1つのチャンスを与えるという意義があることは私も十分に認めてもいる。とはいえ、そのチャンスの価値は昔よりは格段に下がってきているのもまた確かだろう。この点についてはレコード産業の栄枯盛衰も合わせて考える必要があろう。なお、コンクールというものに対する批判の1つとして、たとえば次のものを参照されたい:https://research.piano.or.jp/series/pandc/index.html)。

 さて、その予備予選の出場者の内訳だが、アジア勢の数字が異様に大いのに今更ながらに驚く。とりわけ中国は参加者166人中65人もいる(道理で、いつ動画を観ても中国人の演奏にお目にかかれたわけだ)。ついで、日本の(二重国籍者を含めて)23人、韓国の21人と続く(https://www.chopinist.net/chopin_competition/no19_preliminary.html)。さらに他のアジア諸国の参加者7人を加えれば、これだけで何と全体の69%を占めていることになる。

 中国人参加者の多さを見ると、かつての日本の「ピアノ熱」が思い起こされる。それは今やすっかり醒めてしまったものだが、ある時期から中国がその「熱」に罹ってしまったようだ(そのため、日本で不要になった中古ピアノは中国向けの重要な商品となった)。これがいつまでどのようなかたちで続くのか、少なからず興味が持たれるところだ。

 アジア勢の熱の高さに対して、欧米諸国はどうだろうか。ショパンの母国ポーランドの9人が参加者数としてはもっとも多いが、その程度であり、他の国の参加者はもっと少ない。もしかしたら、アジア勢には「参加することに意義がある」とする気風があるのだろうか? その点、欧米ではコンクールというもの(のみならず、西洋芸術音楽自体)に対する興味関心が薄れてきているように見える。

 ともあれ、今はいろいろな意味で西洋芸術音楽は大転換期にあると思われる。そして、これを乗り切るには従来の価値観に縛られていては難しかろう。が、西洋芸術音楽のこれまでの蓄積は真のイノヴェィションを成し遂げる才能の持ち主を生み出すかもしれない。