2021年9月27日月曜日

シュナーベルの没後70年

   今年はアトゥー・シュナーベル(1882-1951)の没後70年でもあった。ということは、今から40年以上前に私がクラシック音楽を聴き始めた頃には、まだ没後30年ほどだったことになるが、彼の録音はむしろ現在の方がよく聴かれているのではないだろうか。それは1つにはディスクが入手しやすくなったからであり、もう1つには今の方が種々の情報に容易に触れることができるからだろう。

 シュナーベルは作曲家でもあり、自身の楽器たるピアノのための作品に留まらず(ただし、ピアノ協奏曲はない。ということはつまり、彼は純然たる作曲家として評価されたかったのだろう)、3つの交響曲や5つの弦楽四重奏曲など、少なからぬ作品をものしている。そして、昔はシュナーベルの作品などほとんど耳にできなかったが、今や楽譜も出版されているし、録音もいくつかある(没後70年ならば来年からは演奏が著作権使用料抜きで作品が演奏できるようになるので、もっと演奏や録音の機会が触れるかもしれない)。

 ピアニストとしてのシュナーベルといえば、やはりベートーヴェンの「ソナタ全曲録音」が最大の業績としてあげられよう。それは世界初のものであるだけではなく、今なお聴かれ続けている名演奏である。20世紀後半には「ソナタ全曲録音」は何ら珍しいことではなく、21世紀の今や飽和状態になっているほどだが、果たしてそのうちのどれほどが半世紀上聴かれ続けることになるだろうか? 

 ところで、シュナーベル同様、作曲家でもあるピアニストで「ソナタ全曲録音」を成し遂げた人としては、たとえばイヴ・ナット(1890-1956)、ヴィルヘルム・ケンプ(1895-1991)タチアナ・ニコラーエワ(1924-93)、フリードリヒ・グルダ(1930-2000)、ミカエル・レヴィナス(1949-)、野平一郎(1953-)、ファジル・サイ(1970-)といった人たちがいる。彼(女)らのベートーヴェン演奏を専業ピアニストのそれと聴き比べてみると、いろいろと面白かろう。

 

 シュナーベルの録音とのちの人の録音を大きく分かつのは「編集」の有無である。 20世紀後半以降、録音の編集は常套手段と化したが、その見直しがなされてもよいかもしれない。