信時潔(1887-1965)の名作、歌曲集《沙羅》を久しぶりに聴いてみた。やはり、すばらしい(とりわけ、第1曲の〈丹沢〉が)。私がこの曲集を知ったのは今から30年ほど前のこと。恩師、田鎖大志郎先生がこれを絶賛しており、それで聴いてみたのである。が、当時はまだそのよさがわかっていなかったなあ、と今にして思う。
もっとも、この《沙羅》は「日本歌曲」のまだ黎明期の作であり、日本語と歌の関係で解決すべき問題をいろいろと抱えてはいる(そのことは、たとえば次の録音を聴けばおわかりいただけよう:https://www.youtube.com/watch?v=Z6fQqT_GrVA)。とはいえ、それでも十分に聴かせるだけのものがこの曲集にはある。《海道東征》などよりもこちらを私は格段に好む。