まず考えられるのは引用・借用である。すなわち、出典がそれなりに有名なものであり、その元の脈絡から大きく外れるかたちで音楽が引用・借用されれば、その「ズレ」が笑いをもたらすことは十分にありうる。が、そうはいっても、少しでも用い方を誤ると却って聴き手をしらけさせてしまうことになるので、これはなかなか難しかろう。また、うまくいったとしても、腹の底からの笑いを引き起こすことは難しく、せいぜい聴き手の顔をほころばせるか、微笑を誘うことができれば御の字ではないか。
次に考えられるのは、何か具体的な音現象の模倣である。が、これもよほどうまくやらないと既存の音楽の引用・借用以上に「はずして」しまうことになろう。そして、偶さかうまくいったとしても、何か一瞬の冗談のようなものに留まってしまい、そうしたものは一度ネタが割れてしまうと、次はなかなか笑えまい。
では、純粋な音の構成だけで(何か予め「解説」で誘導するようなこともなく)人を笑わせ、しかも、その笑いが作品の構成要素としてしかるべき重みを持つような音楽はつくりえないのだろうか? たぶん、この課題に真正面から取り組んだ作曲家はこれまでにいないはずである(「笑い」をテーマに掲げている人はいないでもなく、その着眼点のよさは大いに称賛したいが、残念ながら肝心の作品があまり成功しているようには思えない)。ならば、未開拓の分野としてこれからいろいろ試みる価値と可能性があるのではないだろうか。というわけで、そうした奇特な作曲家の登場に期待したい。