ピアニストのヨゼフ・ホフマン(1876-1956 )も今年生誕150年だった。ラフマニノフが好敵手とみなした名人である。
私がホフマン(の演奏録音)を初めて聴いたのは中学生のときだ。昔のピアニストを特集した番組でのことで、演目は彼の師の1人、モリッツ・モシュコフスキの《スペイン奇想曲》だった(https://www.youtube.com/watch?v=rYc15E7g5Ho&list=RDrYc15E7g5Ho&start_radio=1。ちなみに、現在最高のピアニストの1人であるスティーヴン・ハフもこの曲を録音しているが、その内容から判断するに、彼はホフマンのこの曲の演奏をかなり研究しているようだ)。とにかく圧倒されてしまい、この大ピアニストをもっと聴いてみたいと思った。
だが、当時、すなわち、1980年代の初めにはそれは無理なことだった。日本で手に入る録音など皆無に等しかったのだから。いや、日本だけではない。外国でも果たしてどれだけの音源が当時入手可能だったことだろうか。現役のLPは基本的には現役の演奏家のためのものだったのである(もちろん、過去の名演奏家の録音も販売されていたが、よほど「売れる」もの以外は「ついで」であった)。
ところが「商品」として過去の録音に価値が見出されたり、CD時代になってディスクの製造コストが下がったりして、あるいはその他にも理由があったのだろうが、ある時期から昔々の名演奏の録音が容易に入手できるようになった。そして、インターネットがそれに拍車をかけた。
というわけで、上にあげたような録音がかんたんに聴けるようになり、以前ならば文字情報で「隔靴掻痒」にしか知りようがなかった演奏のありように(録音によるものだとはいえ)実際に触れ、その技芸を味わうことができるようになったわけだ。
さて、今現役の演奏家たちの録音がたとえば「生誕150年」を迎えたときにこのホフマンのように聴かれているだろうか? もちろん、現在にもすばらしい演奏家はそれなりにいるに違いない。が、そもそも演奏家の数とその録音の数がホフマンの時代に比べれば格段に多いので、相当熾烈な競争が繰り広げられるそうだ(また、インターネット環境も今と同じだという保証はどこにもない)。