2026年1月10日土曜日

ちょっとしたファンタジー

  ロマーン・インガルデン(1893-1970)の「音楽作品の同一性」についての論において、音楽作品とは「さまざまな現実化の可能性の束である」(福田達夫の論文「演奏の美学のために」での表現)だとされる。この場合の「現実化」とはそのつどの演奏や聴取のことであり、それによって作品の不確定なありようがあくまでもその場限りのものとして確定されることになる。

最近、ふと思ったことだが、こうしたインガルデンの論はどこか量子力学でいう「重ね合わせ」と「観測問題」を連想させる。もちろん、両者の論が全くの別物であることは重々承知している。ちなみに、インガルデンがその論を構想・執筆しはじめた時期(論の末尾には「パリ1928―ルヴフ  1933―クラクフ 1957」と記されているが、この日付のうちのはじめの2つ)はまさに量子力学がかたちをなしていった時期とほぼ一致する。くどいようだが、だからといって両者に直接の繋がりがあるということでは断じてない。が、その時期の一致ということに、私は面白い偶然以上のものを感じてしまう。