2021年2月13日土曜日

チック・コリア

 チック・コリアが亡くなった。79歳だというからまあ、短命な人が少なくなかったジャズ・ミュージシャンの中ではそれなりに長い人生だったといえよう。ともあれ、また輝かしい音楽シーンを支えた人が去って(「永遠へと還って」)行った。

 もっとも、私はチックのよき聴き手ではなかった。LP時代、かれのアルバムは1枚も持っておらず、購ったのはキース・ジャレットのLPだった(が、名作『ケルン・コンサート』ではなく、なぜか『ブレーメン/ローザンヌ・コンサート』の方。この選択の理由は自分でもよくわからない)。そして、後年興味を持ち、熱心に聴いたのはハービー・ハンコックである。とはいえ、それでもやはりチックのことはどこかで気になってはいた。

 そもそも私が初めて彼の演奏を聴いたのは、フリードリヒ・グルダと共演したLPによってである。モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲と各々の自作を収めたそのアルバムはまことに面白く、当時の愛聴盤だった。そして、同じ頃、チックとキースが日本でモーツァルトの協奏曲を弾き、この2台の協奏曲を共演してのだが、エアチェックして、これも長らく楽しませてもらった。……が、チックのアルバムを買うには至っていない(ジャレットのものは購ったのに……)。

 ただ、楽譜は1冊手に入れている。1983年に全音から出た《チルドレンズ・ソング(ス)》がそれで、手持ちのものを見ると、「1984.8.5」という日付けが書き込まれていた。これはいわばチック・コリアの《つかの間の幻影》ともいえる曲集であり、当時、大いに楽しんだものである。……が、この曲集を収めたLPがほどなく発売されているにもかかわらず、こちらは購っていない。というわけで、やはり私とチックはどこか縁遠かったようだ(もっとも、当時の私の懐事情ではなかなかジャズにまでは手が回らなかったということもある)。

 そんな私がチックのことが再び気になりだしたのが、マイルズ・デイヴィスを好んで聴くようになってからだ(彼のバンドにチックは一時期加入しており、名盤『ビッチェズ・ブリュー』もまさにその頃のもの)。そして、近年、とうとうその実演に触れることができたのである。それは大阪のいずみホールでの小曽根真とのデュオ・コンサートだった(調べてみたら、およそ5年前のことである)。それぞれのソロによる自作あり、デュオあり、そして、その中にはモーツァルトのあの協奏曲も含まれており、すっかりチックのプレイに魅せられた。まあ、それが生で聴いた最初で最後のチック・コリアだったが、彼が遺した数多のディスクでこれからも(いや、むしろこれからもっと)その音楽を楽しませてもらうことにしたい。

                      (CD盤のChildren’s Songsを聴きながら)