このところすっかり黒田龍之助氏の著書に魅せられており、次々とご近所図書館(コロナの影響で閉館中だが、予約すれば窓口で本を借りることはできる)から借りてきては読んでいる。どれも実に面白い。私のように語学が苦手な(精確に言えば、大いに興味関心があって、自分なりに楽しんではいるのだが、能力の低い)者にとっても、教わるところがいろいろある。
今も『その他外国語 エトセトラ』(ちくま文庫、2017年)を楽しく読んでいるが、たとえば、そこに収められた「『ふーん』という精神」という一編など、中学校の国語か社会の教科書にでも載せたらよかろう。この「ふーん」というのは筆者によれば、「新しいことに出会う」ときに抱く「世の中にはずいぶんいろんなことがあるなあ」(前掲書、72頁)という思いを表すものだという。「ほかの人の生き方やよその国の習慣は、ずいぶんと異なる。中には受け入れ難いものもある。しかしそれに口を出してはいけない。ただ黙って見守る。それ以上のことをするべきではないし、期待されてもいない」(同)という考え方がこの「ふーん」という一語に込められているというのだ。いや、まことにごもっとも。
ともあれ、多くの言語=文化との戯れ(これは讃辞!)の中から語り出される氏の言葉にはこれからも耳を傾け、自分なりに戯れることにしたい(ただ、前掲書の中で「音楽にも言語はいらない」(97頁)という文言には賛成できない。器楽曲であっても、その奏で方には演奏者の母語の特性が大きく関わってくると考えられるからだ)。