2021年2月15日月曜日

魔法のツィター?

 昨日話題にした池内紀の『記憶の海辺』に「魔法のファゴット」なる音楽劇の話が出てくる。そして、シカネーダーがこれに刺激を受けてモーツァルトに《魔法の笛》の作曲をけしかけたと池内は推測している。「魔法のファゴット」! 

 安直にWikiで調べてみると、日本語版では出てこない。が、ドイツ語版や英語版などではちゃんとあった。作曲者はヴェンツェル・ミュラー(1759-1835)で、まさにモーツァルトと同年代の人である(「ふつうモーツァルトのライバルは[……]サリエリとされているが、それは宮廷楽長のポストをめぐってのことであって、音楽的には[……]ヴェンツェル・ミュラーだったはずだ」(前掲書、85頁)と著者は留学中にヴィーンで聞いた講演の一節を紹介している)。そして、問題の作品はジングシュピール(歌芝居)《ファゴット吹きカスパール――あるいは、魔法のツィター》というもので、初演は1791 68日。《魔法の笛》の初演が同年の930日だが、モーツァルトはその作曲を春から初めていたそうだから、ミュラー作品の初演に影響されてのものではない。が、「魔法」ものが当時、人気があったというのは間違いないのだろう(なお、「魔法のツィター」も「魔法の笛」もともにネタの1つが共通しているという。すなわち、クリストフ・マルティン・ヴィーラントの童話劇「ルル、あるいは魔法の笛」がそれだ)。

 こうなると、その《魔法のツィター》がどんな歌芝居なのか観てみたくなるところだ。なるほどモーツァルトの《魔法の笛》は傑作だが、いつもそればかりでは飽きるというもの。いや、この作品に限らない。他の作品も演奏されすぎではなかろうか。それでは「ありがたみ」が減ってしまう。演奏家、そして、演奏会の企画者はもっとよく考えてしかるべきだろう。……おっと、話が脱線してしまった。とにかく、《魔法のツィター》が気になる。