『Ryuichi Sakamoto | year Book 1971-1979』(commons/エイベックス、2016)を聴いている。この3枚組のアルバムには坂本龍一の東京藝大時代の作品もいろいろ収められており、それに興味があったのだ。
そうしたアカデミックな作品は実にきっちりと書かれており、坂本の腕の確かさをうかがわせるものだ(さもなければ作曲科の大学院には進学できなかったろう。そこはなかなかの狭き門だったのだから)。とはいえ、それらの作品には強烈な個性は感じられなく、あくまでも「秀(才の)作」に留まっているように思われる。もしその延長線上で創作を続け、「現代音楽」の作曲家として活動していたならば、おそらく「世界のサカモト」は生まれなかったことだろう。が、実際には自らの職人芸を最大限に活かせる(とともに、ある意味で「現代音楽」よりも大きな可能性を持つ)ところに活動の場を求めて大きな成功を収め、音楽の世界を豊かにしたわけであり、その点で坂本龍一というのは本当に非凡な音楽家だったと思わないわけにはいかない。
そんな坂本の数少ない「現代音楽」作品たる《分散・境界・砂》(1976)はまことに美しく、鋭い音楽である(もっとも、そこかしこに散りばめられた「言葉」はいかにも「現代音楽」調であり、目(耳)障りだ)。こうしたものを聴くと、そのときに彼がまさにシリアスな音楽とポップな音楽の「境界」線上にいたことがわかる。そして、そこからYMOへの距離はそう遠いものではなかったことも。