2026年7月21日火曜日

中野慶理先生の演奏動画

  私が尊敬し、敬愛するピアニストである中野慶理先生からご自身のリサイタルの一部を収録した動画がアップされていることをお知らせいただいた(https://www.youtube.com/watch?v=x3zzREeodYY)。そこでさっそく拝聴したが、やはりすばらしい。選曲は硬軟取り混ぜたものだが、いずれもその作品にふさわしい表現がなされており、とにかく引き込まれてしまった。

 最初の草野次郎《「宵待草」の主題によるパラフレーズ》はご存じの名曲に基づくものだが、なかなかの難物だ。というのも、多彩で繊細かつ微妙な表現をピアノから引き出せる人が弾かないと、甘ったるくてだらだらした曲になってしまいかねないからである。が、もちろん、中野先生の手にかかればそんな心配はない。原曲の持つ魅力を巧みにパラフレーズした作曲者の技とそこから生まれた豊かな音楽を存分に味わわせてもらった。

 続くショパンの《幻想曲》もやはり難物である。これも真の意味での技術と音楽性を持たないピアニストの手にかかると見るも無惨な音楽(なんだか同じところをぐるぐる回っているような感じ)になってしまう作品だが、中野先生はこの作品の劇的なドラマを見事に聴かせきった。最後のカデンツの何と感動的だったことか。

 ベートーヴェンの〈ロンド ハ長調〉はピアノの初学者にとってはお馴染みの曲である。が、それだけにただなんとなく通過されがちでもったいない作品でもある。私はなぜかこの曲が大好きなので、今回聴けてとてもうれしかった。先生の演奏を聴きながら、なぜか’Sehnsucht(憧れ)という語が浮かび、最後までそれが頭から離れなかった。それはもしかしたら、子供の頃に自分が音楽に対して抱いた感情の記憶をこの演奏が呼び覚ましてくれたからかもしれない。

 締めくくりの2曲はアンコール演奏であろうか。久石譲の〈もののけ姫〉と〈人生のメリーゴーラウンド〉というお馴染みの映画音楽である。これがまたすばらしかった。もちろん楽曲自体の持つ魅力もある。が、それに加えてこうしたものを何の外連味もなくすっと弾いてみせる先生の技と音楽性の賜物でもあろう。

 ともあれ、抜粋とはいえ、実にすばらしい、そして、素敵な演奏だった。こうしたものを聴くと、今度は久しぶりに演奏会場で中野先生の演奏に接したいものだと強く思う。さて、そのときはどんな作品が取り上げられ、どのような演奏がなされるだろうか。楽しみにその機会を待つことにしたい。