2020年6月13日土曜日

楽譜を読む面白さ

   ある種の現代音楽作品は楽譜を読むときが一番面白いかもしれない(と、多少の皮肉を込めてこう言う)。精緻に書かれた楽譜に示されたいろいろなアイディアはしばしば「実現不可能」なことがあり、実際の鳴り響きとして聴くと色褪せてしまうことが少なくないからだ。
聴いてつまらない作品は論外だが、鳴り響きが面白く感じられる作品であっても「楽譜の方がもっと興味深い」と思われる作品もないではない。そして、実のところ現代音楽作品に限らず、実演には現れきらない「謎」のようなものが楽譜に示されていて、その読解へと読み手を誘う作品はクラシック音楽にも少なくない(そうした「謎」を持つことが、繰り返し演奏される「名曲」の必須条件ではなかろうか?)。だから、楽譜を読むことや「写経」することには、それを演奏したり、鳴り響きを聴いたりするのとはまた異なる楽しみがある。シェーンベルクなどが言うように「音楽作品には演奏は不要だ」というのは明らかに暴論だとしても……(もちろん、シェーンベルクとて心の底からそう思っていたわけではあるまいが。こうした発言の裏にはたぶん、自分の作品がめったに演奏されず、また、偶さかされることがあっても演奏が酷いことに腹を立てていたということもいくらかあるのだろう)。