2020年6月15日月曜日

そこまで苦労して……

 ジョン・ケージは「作品」を書く上で種々の「偶然」に頼っている。言い換えれば、自身の意志による決定を極力排除している。ところが、そうしてできあがったものの中には演奏者をがんじがらめにしてしまうものがある。あまりに演奏が難しいからだ。そうした楽譜を見ると、ついこう考えてしまう。「偶然に決まった音のありようを演奏者がそこまで苦労して守らねばならないものなのか? 多少指示に背いたところで聴き手にはわからないし、音楽のありようにもさほど影響もないというのに……」と。ケージは偉大な音楽(思想)家だ(し、私は彼の音楽を概ね好む)が、どこか間違っているところもあるのではないだろうか。