その「白と黒だけ」の世界のドラマを織りなしているのは「和声」と「運動」だ。この両者の均整が《ソナタ》では見事に取られており、その造形の美しさには目を見張らされる。が、反面、すべてが整いすぎているように感じられなくもない。この「調和」をよい意味で乱して新たな局面を切り開こうとしたのが《シェーヌ》であろう。そこでは新旧の語法が未整理のまま混在しているきらいがあるが、むしろそこが面白い。
ところが、次の《アン・ヴェール》になると《ソナタ》とはまた違ったかたちでの「調和」と「安定」がもたらされている。そして、《ピアノのために》ではそれがいっそう堅固なものにされているようだ。まことに美しい音の世界がこの2曲にはあるが、それが何かとても「静的」で「閉じた」ものに私には感じられてならない。が、その奥にまだ私にとって未知の美の世界があるのかもしれない。というわけで、もうしばらく、この2曲を聴き続けてみよう。