昨日よりロビン・ケリー『セロニアス・モンク――独創のジャズ物語』(小田中裕次・訳、シンコーミュージック・エンタテイメント、2017年)を読み始める(訳者自身による紹介:https://odanakajazz.blogspot.com/2017/08/monk.html)。以前からずっと気になっていた本なのだが、実に面白い(訳も読みやすい)。
同書の著者は歴史学者(ジャズにも造詣の深い人)でだそうで、それだけに記述は実証的だが決して無味乾燥ではなく、モンクという「人」とその音楽を生き生きと描き出している。私が読んでいるのはまだビ・バップ誕生以前の部分だが、それだけでもモンクに対するこれまでの自分の認識をいろいろと改めさせられており、続きが楽しみでならない。そこではモンクを取り巻いていた種々の神話が良い意味ではぎ取られていくことだろう。
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「伝記」にもきちんとした史料に基づく実証的なものから書き手の主観的な評価を多く含むものまでいろいろある。そして、そのどれも一長一短であり、決定的な伝記というものはありえない。が、歴史上の重要人物、つまり、話題にされる機会が多く、後世に多大な影響を与えている人物についてはやはり厳密に実証的な伝記は必要だろう。
そうした重要人物に関する史料で、当人の生存中はもちろん、没後でもまだ日の浅い頃(すなわち、当人と関わりのあった人たちが生きている間)には「都合の悪い」ものや扱いが難しいものはなかなか表には出てこないだろう。それゆえ、ある程度の時が経たないことには厳密に実証的な伝記というものは書けないことになる(その意味で、武満徹などの本格的な伝記はまだまだ登場の機が熟していないわけだ)。
とはいえ、他方で、当人や関係者の生きた証言にも史料としての価値はあり(もちろん、のちに批判的に吟味されるべきものだが)、それについては早々に集め、できれば何らかのかたちにまとめておく必要がある。それは後年、機が熟したときに誰かが書く実証的伝記にとって貴重な材料となるものであり、のみならず、著作として公刊された場合には、本格的な伝記の登場を(寿命の都合で)待てない読者にとってもありがたいものとなる(そのいずれの意味でも、武満徹の場合でいえば、立花隆の『武満徹・音楽創造への旅』(文藝春秋、2016年)や小学館の『武満徹全集』絡みのインタヴュー本、それに小野光子『武満徹・ある作曲家の肖像』(音楽之友社、2016年)はとても重要な仕事であろう)。