今日はCD棚でたまたま目に止まった河合優子のショパンを聴いている。何度聴いてもまことに味わい深い演奏であり、ふと現在同氏がどうしているかが気になった。そこでインターネットで検索してみると、当人のツイッターが見つかったので早速読んでみると、なかなか厄介な問題が出来しているようだった。
それは何かといえば、全音楽譜出版社から出始めたいわゆる「エキエル版」の翻訳版に関することである。河合氏も翻訳に関わった『ノクターン集』が監修者の手によっていろいろとおかしな具合にされているというのだ(https://twitter.com/yukokawai)。あげられた例を見てみると、「なるほど」と思うところもあれば、「そこまで言わなくても」と感じるところもある(原文によれば「いわゆるハーフペダル」とすべきところで「いわゆる」が抜けているとの指摘だが、エキエル版原典に添付されている英訳でもそれに相当する語はないのだから、これくらい許されてもよかろうと私などは思ってしまう。ただし、あくまでも監修者がポーランド語の原典を確認していることが前提だが)。河合氏によると、そうした誤訳・不適切訳は「少なくとも396箇所」もあるという。
河合氏は「単に正誤表で並べるというよりは 専門用語をわかりやすくかみくだいて説明し、 『なぜこうでなければ困るのか』を ひとつずつ 一緒に理解しながら進めていって そのあとで一覧にまとめたいと思っています」と言う。が、この際、まずはその「正誤表」を同氏はホームページで公開し、現状を多くの人に知らしめた方がよいと私は思う。そして、さらには掲示板を設けて意見交換もできるようにすれば、なおのことよかろう(氏が「誤」だと考えるものの中にもそれほどのものではないものや勘違いが見つかるかもしれないし、逆に氏が見落としていた「誤」を誰かが指摘するかもしれないので)。
私は正直なところ「エキエル版至上主義」とでもいった一部の風潮が嫌だし、ジム・サムスンらの手によるPeters版にももっと注意が払われてしかるべきだと考える者だが、それと今回の翻訳版の件は別である。せっかく翻訳が出され、しかも、その利用者が少なくないというのならば、やはりできるかぎりきちんとしたものであって欲しいと当然のことながら思う。そして、全音楽譜出版社にもしかるべき対応を期待している。