2021年12月24日金曜日

ハンフリー・バートン『バーンスタインの生涯』を楽しく読んでいる

   このところハンフリー・バートン『バーンスタインの生涯』(棚橋志行・訳、福武書店、1994年(新版は青土社、2018年))を楽しく読んでいる。これまで私が折に触れ読んできたのはジョーン・パイザーの手になる評伝だが、まことに独自の視点(バーンスタインの性格とその作品を精神分析的に読み解くこと)から書かれた「面白すぎる」ものであり、それに比べればバートン本はまことにバランスがうまく取れている。そして、これを読むことによってパイザー本の長所も短所もよくわかった(ちなみにパイザーはブゥレーズの評伝も書いているが、それをグレン・グールドは辛辣に評している)。他方、バートン本はバランスのよさゆえに音楽面での掘り下げが足りないが、「伝記」ゆえに仕方があるまい。

  バーンスタインという人は、人物自体、そして、その作品や演奏録音もさることながら、20世紀の芸術音楽の世界を読み解く上でさまざまな視点を提供してくれるという意味でもまことに興味深い存在だ。

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 作曲と指揮を手がけ、バーンスタインとあらゆる意味で対照的な道を行ったのが7歳年下のブゥレーズだろう。この2人を対比するかたちで1冊の評伝をまとめればとても面白いものになるはずだ。

 彼らが活躍した(「現代音楽」も含む)クラシック音楽の世界には今や昔日の輝きはない(し、それが取り戻されることもまずないだろう)が、だからこそ、このおよそ異なるタイプの2人の万能音楽家の軌跡を通して20世紀という時代の一面が見えてくるだろうし、その「昨日の世界」とは異なる現代なりの音楽世界のありようを探るヒントも(あくまでも過去を批判的に読み解くことで)見つかるかもしれない。