2021年1月22日金曜日

「間違った」楽譜!?

  楽譜の資料研究の結果、古い楽譜との間に大小の違いが生じることがしばしばある。もちろん、必ずしも新しい版が正しいという保証はないが、それが明らかな「間違い」を訂正している場合も少なくない。

 とはいえ、その「間違い」が判明する前の楽譜によって作品を享受してきた人たちにとっては、それは「間違い」などではなく、「正しい」ものだったわけである。この件を「音楽作品の存在論」を問う者はどう処理できるだろうか? そう簡単な問題ではないはずである(楽譜が「修正」されたのちも、それ以前の楽譜に基づく演奏録音が残り続けるということは普通にあるが、その場合、そうした演奏録音は作品の「間違った」姿を示すものなのか??)。

 私はもはや「存在論」には関心はないので「高みの見物」をするのみだが、自分なりに答えを考えるとすれば、これをSFで話題にされる「平行(並行)世界」に喩えるだろう。すなわち、1つのテクストとして確定された作品にある時点で修正が加えられた場合、元のテクストと新しいテクストとでは作品世界が分岐し、それぞれに独立し、平行して存在する、というふうに考えるわけだ。