シャルル・ケクランの快著、『和声概論』の目次をあげてみよう。それは以下の通りだ:
第1巻
第1章 諸定義-一般的な規則
第2章 完全和音
第3章 終止形、反復進行、転調
第4章 7の和音
第5章 和音と諸度の役割-完全和音再説
第6章 9の和音
第7章 繋留音
第8章 変位音
第9章 保続音
第10章 和音外音
第2巻
第11章 教会旋法とその他の諸音階
第12章 対位法的様式
第13章 [パリ音楽院の和声科]コンクール[=修了試験]のための講義-[試験問題の]分析
第14章 破格の書法
第15章 新しい考え方
第16章 和声と作曲
第17章 和声の変遷
すなわち、第1巻が和声法の基礎を扱い、第2巻で和声を新旧の方向で拡張 することを目指しているわけだ(第3巻は課題の解答集)。
とにかく、同書はいろいろな点でまことに面白い。まず、第1巻だが、確かに「基礎」を扱ってはいるのだが、ケクランが示す範例とその説明は驚きに満ちている。初心者はもちろん、普通の音楽理論の教師でも「こうはしないだろう!」という処理が散見されるのだ。理論の実習といえどもそこに「創意工夫」をケクランは求めているのだ。
また、第2巻は機能調性確立以前の旋法と20世紀の調性の拡張の可能性を探り、そのために音楽作品に用いられてきた和声の歴史を通覧するものだが、それとパリ音楽院のコンクールのための講義が同居しているのがなかなかにほほえましい。が、そのいずれにせよ、とにかくケクランの論述は「理論」と「実践」が絶妙な「動的」均衡を保っており、まことにスリリングだ。