以前にも話題にしたことがあるが、楽譜の写経(写譜)はとても楽しい。いろいろと発見があるからだ。これまでわかっていたつもりの作品でも見落としがあることもわかる。楽譜は目で読んだり演奏したりするだけではなく、書き写すことでも音楽を楽しめるのだ。
一口に写譜といっても、用途に応じてやり方を変えている。元の楽譜をそっくりそのまま写すこともあれば、大きな編成の作品を2段の大譜表に縮約することもある。また、臨時記号が多くて読みにくい楽譜では#は緑、♭は赤、などというふうに色分けして記すこともある(下の最初の譜例。スクリャービンの第9ソナタの冒頭。タイで繋がれた音は黄色で記してあり、こうするともっと複雑なところで同時に打鍵すべき音が一目瞭然になる。なお、ここには出てこないが、ダブル#は水色、ダブル♭は紫色を用いている)。あるいは、ポリフォニー曲では声部ごとに色を変えて記すとぐっと読みやすくなる(次の譜例。タイの黄色は前の譜例と同様。これはバッハの《シンフォニア》第1曲冒頭――左右の手の配分はカゼッラ版に従っている。上段が右手、下段が左手――だが、こうした写経の仕方をバッハに今ひとつ馴染めずにいるピアノの初学者にお勧めしたい)。