高橋悠治のアルバム『フーガの(電子)技法』(コロムビアミュージックエンタテインメント、2006年)を久しぶりに聴いてみた。J. S. バッハの《フーガの技法》から数曲を抜粋し、シンセサイザーを用いて多重録音によってつくられたアルバムである。私の手持ちのものはCDだが、元々はLPとして出ており、1975年8~9月、つまり、今から45年ほど前に制作されたものだ。
これを聴いて何よりも懐旧の念に誘われる。それは、ここで用いられているシンセサイザーその他の「電子」技術が今となっては「大昔」のものであり、いわばセピア色に変色した写真を見るような感じがするからだ。このアルバムが出た当時には最新の技術を駆使したものだったはずだが、その後の技術の進歩の中であっという間に古びてしまったわけだ。が、だからこそ、なおのこと、この『フーガの(電子)技法』にはある面で1つの時代が強く刻印されているのだともいえよう。
とはいえ、それだけのことで今でもこのアルバムを聴くのではない。高橋の「アレンジ」ぶりがまことに面白く、その前年の傑作《パーセル最後の曲集》とともに今なお聴いて楽しめるテープ音楽作品だからだ。いずれも音盤が生産中止となっているが、再生産されれば喜んで聴く者がそれなりにいるのではなかろうか(ちなみに、私がこの2つのアルバムのことを知ったのは1980年代初め。ところが、カタログからはすでに姿を消しており、当時、LPで聴くことはできなかった。《パーセル》をようやく聴けたのはそのおよそ10年後、『(電子)技法』はさらにその10年以上後のことである。どちらのときも興奮しながら聴いたものだが、今でもどきどきしながら聴いている)。