2021年4月30日金曜日

もしCDがなかったならば

 「CDよりもLPの方が音がよい」という主張を論駁したいとは思わない。そんなことは私にとってはどうでもよいことだからだ。LPよりも断然安価で取扱いが簡単、かつ、場所を取らないCDというメディアがあればこそ、私のような万年低所得者はこれまで多くの音楽に触れることができたのだから。もし、現在でも音盤がLPしかなかったならば、私が知り得、楽しみ得た音楽は現在の半分未満だったろう(まあ、これも考えようによっては「CDのために、聴かなくてもよいようなものを無駄に聴いてしまった」ということもあるのかもしれないが……)。

 今日、一度はなくなりかけたLPがそれなりに人気を得ているようだが、それはそれでけっこうなことだし、私は人様の楽しみに水を差すつもりは全くない。「LPの方がよい」と感じ、かつ、それを購う余裕のある人はLPを聴けばよいと思う。

 ただ、それはそれとして、CDLPの音の特性を専門の研究者が客観的かつ冷静に検証した書があればよいと思う。その際、さほど高価ではない再生機器やスピーカーを用いた場合についても探れば、普通のユーザーにとっては大いに参考になるはずだ。もっとも、そうした比較は「CDLPのどちらも売りたい」ディスクのメーカーを喜ばせないだろうが……。

 

2021年4月29日木曜日

メモ(50)

 音楽作品の「イデア」なるものがあるとすれば、それはその都度の(頭の中で思い浮かべるものも含めての)演奏を通して暫定的に仄見えるものでしかない。予めあるイデアを現実化するのが演奏ではなく、演奏によって初めて(あくまでも暫定的なものとしての)イデアの片鱗を捉えることができる(すなわち、イデアはア・プリオリなものではなく、ア・ポステリオリなものだということ)。

 

 必ずしも長生きすること自体に価値があるわけではないが、今日の多くの演奏には失われてしまったものを生々しく示してくれるという点でこの長命の現役ピアニストの演奏は貴重だ:https://www.youtube.com/watch?v=ml021gdGMto

2021年4月28日水曜日

スタンダード・ナンバー

  ジャズにはいわゆる「スタンダード・ナンバー」、つまり、多くのミュージシャンがネタにしているレパートリーが数多あるのはご存じの通り。それはミュージカルの中の1曲であったり、映画音楽のものだったりなどいろいろである。皆がよく知っている曲であればこそ、それを料理するジャズ・ミュージシャンの腕がよくわかるわけだ。

 もっとも、時が経てば、「スタンダード」の中身にも入れ替えが生じる。古くて手垢のつきすぎたものに代わって、新しい生きの良いネタが適宜取り入れられる。その中にはすぐに消えてしまうものもあれば、長く残るものもあろう。ハービー・ハンコックのアルバムThe New StandardVerve, 1996)はまさに当時の「新しいネタ」を集めてきたものだが、現在、そのうちのどれだけのものが「スタンダード」として定着しているだろうか。気になるところだ。

 日本のジャズ・ミュージシャンが自国のポピュラー音楽からどれだけのものを「スタンダード」として取り入れているのか、私は門外漢だから知らない。が、日本の往年のヒット曲、名曲の数々がジャズとして聴ければ楽しいだろうなあと思う。さて、その場合、どのような曲が選ばれるのだろうか。もしかしたら、かくも好みが細分化してしまった現在、「スタンダード」を選ぶことなどできないかもしれないなあ。