和声法を本格的に学ぼうという者にとってかつては必須の教材だったのが、フランスの作曲家アンリ・シャラン(1910-77)の課題集である(このシャランのことは以前、一度話題にした:https://kenmusica.blogspot.com/2020/04/you-tube.html)。そして、パリ音楽院で和声を学んだ人が少なからず、このシャランに学んでいる(ので、彼らの文章にはこの名がしばしば見られる。昨年亡くなった服部克久もシャランの弟子だ)。
この「アンリ」に双子の弟「ルネ」がいることは日本では存外知られていないかもしれない(ちなみに、有名なハープ奏者アニー・シャランはルネの娘)。こちらも作曲家でローマ賞の第1等(Premier Grand Prix)を1935年に得ている(http://www.musimem.com/prix-de-rome.html。兄アンリも翌年に賞を得たが、こちらは第2等(1er Second Grand Prix)止まり。Wikipedia日本版の「第1位、第2位の両方を受賞した」という記述は誤り。英語版にも同様に記されているので、これが元ネタなのだろう)。作曲のみならず、音楽プロデューサーとしても活動し、Wiki(日本版には「ルネ・シャラン」の項目はなく、まさにこの国での「シャラン」受容のありようを示している。が、仏語や英語版ではちゃんとある)その他でもこのルネの方がアンリよりも扱いが大きい(ちなみに、Oxford Music Onlineには両者ともに項目がない!)。
ルネ・シャランの作品のCDを探してみると、現役盤はどうも1つしかないようだ。それはサンソン・フランソワが独奏を担当しているピアノ協奏曲「田園協奏曲」である(https://www.youtube.com/watch?v=a0OwMBE1E9U。今日、ルネ・シャランを話題にしたのも、久しぶりにこの録音を聴いてみたからだ)。まあ、楽しい音楽であり、この作曲家が交響曲を3つも書いているとなれば、それも聴いてみたくなるところだ(これが書かれたのは1950年代半ば。「前衛」が我が世の春を謳歌していた頃だが、その一方でこのシャランのような穏健な作風を取る作曲家も少なからずいたことは見逃すべきではなかろう)。兄のアンリにも1つ交響曲があるそうなので、「シャラン兄弟の交響曲」で一晩の演奏会ができるだろう。1回きりならば好奇心を満たすべく聴きに行く人が少なからずいるのではなかろうか。